日本語/春秋
[社説] 春秋(2021年4月26日)
hongsang
2021. 4. 28. 11:45
仏教に造詣の深いイラストレーターみうらじゅんさんに、「自分なくしの旅」という青春小説がある。「自分探し」ではない。「さよなら私」と題した人生案内のエッセーでは、「探したあげく、最悪な自分しか見つからなかったらどうします?」と問う。どうしよう。
▼みうらさんの卓見を要約すると――。「自分というものは、単体で存在しない。環境や他者との関係により構成されているのだ。だから悩みが生じたときは、自分だけを信じるのではなく相手の気持ちや環境を考えてみよう」。お釈迦さまが説いた「縁起」という思想と重なる。これを、かみ砕いて語ったのだと想像する。
▼この言葉も、仏の教えを表現しているように響く。「君たちがいて僕がいる」。先日、78歳で亡くなった喜劇人チャーリー浜さんのギャグである。七三分けの髪形と黒縁めがねをトレードマークに、吉本新喜劇の舞台で活躍した。この決めぜりふが飛び出すと、一座はずっこけるのがお約束だ。でも、心地よい余韻が残る。
▼思えばこの1年、私たちは出口の見えない暗闇の中で、試行錯誤を続けてきた。時にいらだち、誰かに身勝手な言葉を投げつけたこともあろう。試練は続く。凡人ゆえに悟ることは困難だ。が、仕事や勉強に向かう前に、胸の内でそっとつぶやいてみようか。チャーリーさんの至言を。少しだけ大人になれるかもしれない。