2年前のきょうは「平成」最後の日だった。南海上に前線が延び、列島はあいにくの雨もよう。それでも、各地ではさまざまなイベントに歓声が上がり、入園を無料とした遊園地がにぎわいをみせた。記念の御朱印目当てに、著名な寺社には傘の長い行列もできていた。
▼「思えば遠く来たもんだ」。中原中也の詩の一節である。ふたとせ前の記憶と今の世を比べて、詩人と同じ感慨にふける方も多いのではないか。新しい時代が来る、というかすかな高ぶりは、はるか以前のことのように感じる。新型コロナウイルスの感染拡大と、それに伴う社会の動揺があまりに激しかったせいであろう。
▼マスク不足に一斉休校、3度もの緊急事態宣言……。変異株におびえ、行き渡らないワクチンにやきもきする日々はいつまで続くか。2年とひと月ほど前、「令和」の文字を掲げフラッシュを浴びた菅義偉首相も、感染症とのこれだけの総力戦は予想していなかったはずだ。しかし、被った痛みを通じ浮かんだ宿題も多い。
▼行政のデジタル化を早急に進めることに加えて、医療をめぐる岩盤のような諸規制も崩さねばなるまい。未来への約束のようなものだろうか。中也の詩はこう続いていく。「考えてみれば簡単だ/畢竟(ひっきょう)意志の問題だ/なんとかやるより仕方もない」。畢竟は「つまり」の意。「遠く来た」からこそ、見えてきた景色もある。