したたるような新緑の山里を、2両編成のディーゼル車がゆく。若葉が目に染みるとはこの風景だろう。眼下には久慈川の清流が蛇行し、右に見えたかと思うと左に現れて眺めに飽きることがない。茨城県水戸と福島県郡山を結ぶ、全長137キロメートルのJR水郡線である。
▼2019年10月の台風で鉄橋が流失し、一部区間の不通が続いていた。ふだんは穏やかな久慈川が荒れ狂い、鉄路は濁流にのみ込まれたのである。それでも1年半を経て復旧し、つい1カ月前に全線で運転を再開したばかりだ。何ごともなかったみたいに走る列車だが、じつはローカル線のこうした復活はなかなか難しい。
▼自然災害によって寸断され、元に戻らなくなった路線が全国に散らばっている。東日本大震災で被災した三陸の線区の一部は鉄道の復旧を断念し、BRT(バス高速輸送システム)に切り替わった。秘境の鉄道として知られるJR只見線はじつに10年間も途切れたままだ。なんとか廃線を免れ、来年度中に復旧するという。
▼ローカル線の苦難を、災害が際だたせる格好である。バスへの転換はひとつの打開策だが、鉄道に寄せる地域の感情も熱く、悩みは深いのだ。水郡線の常陸大子駅には、映画「幸福の黄色いハンカチ」をヒントに、住民が喜びのメッセージをしるした黄色い布が所狭しと掲げられていた。目に染みるのは新緑だけではない。