「次に掲げる」をどう読むか? 霞が関の官庁街では「ジにケイげる」が正解である。法案作成で誤字は許されない。そこで送り仮名や同音異義語のミスをなくすため音読み訓読みを工夫する。規定はキサダで規程はキホド。奇妙な日本語での読み合わせが延々と続く。
▼各課から優秀な人材を集め、プロジェクト部屋にこもり、内閣法制局とのやり取りを繰り返す。取材で長年、そんな法案作りの過程を間近に見てきただけに、とても信じられない。今の国会に政府が提出した法案・条約24本の条文や関連資料から誤記載や脱字が見つかった。プロジェクトチームを設けて原因を探るという。
▼政権肝煎りのデジタル改革関連法案では関連資料に45カ所の誤記があり、それを修正した正誤表も間違っていた。新型コロナ対策に追われた結果、で済む問題ではない。正午すぎ、電気を消した暗い部屋で作業する職員たちの姿を思い出す。「休み時間に仕事をしていたとなるといろいろややこしいので」と、笑っていた。
▼役所が様々な問題を抱えていることは事実だが、誤表記の山から悲鳴が聞こえてくるような気がする。人事で翻弄され、不本意な国会答弁を迫られ、激しい批判を浴びる。「政治主導」が官僚に無理難題を押しつけ、やる気や志を損ねることにつながっているとしたら……。私たちはやがて大切なものを失うのではないか。