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政治学者で防衛大学校長などを務めた猪木正道さんは、1937年の春、大学を出て三菱系の金融機関に就職した。そろばんが苦手で、調査部へ異動に。日米の貿易が止まった場合の影響を研究するよう求められる。当時、日本は米国から多くのくず鉄を輸入していた。

「陸海軍は活動できなくなる」との結論に上司は「決定的だ」と漏らしたそうだ。軍靴の響きが高まり、戦いの炎が上がる中、猪木さんは幼子を抱え地方へ転勤したり、ドイツの戦争継続の能力を調べさせられたりした。多感な若手社員は終戦時、日記に「わが国は全的崩壊・滅亡の一歩前に救われた」などと残している。

「一身にして二生(にせい)を経(ふ)るが如(ごと)く……」。幕末から明治を生きた福沢諭吉の言葉だ。近現代の激変をくぐり抜けた人々の心の底からの実感だろう。幸いに平和な今、私たちの目の前には脱炭素やデジタル化、人工知能(AI)といった数々のキーワードが並ぶ。技術革新への期待は二生いや「三生」ももたらしてくれそうだ。

明るくスマートな未来が間近いと思わせる一方で、暗い影を落とすのが米中の対立に如実な「民主主義対専制主義」の構図である。かけ離れた価値観からの根深い分断は私たちをいずこへ導いていくのだろう。若き猪木さんの懸念がどこかで繰り返されることになるのか。新年度の始まり、何か良い兆しを見つけたくなる。

 

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