[社説] 春秋(2021年4月29日)
したたるような新緑の山里を、2両編成のディーゼル車がゆく。若葉が目に染みるとはこの風景だろう。眼下には久慈川の清流が蛇行し、右に見えたかと思うと左に現れて眺めに飽きることがない。茨城県水戸と福島県郡山を結ぶ、全長137キロメートルのJR水郡線である。 ▼2019年10月の台風で鉄橋が流失し、一部区間の不通が続いていた。ふだんは穏やかな久慈川が荒れ狂い、鉄路は濁流にのみ込まれたのである。それでも1年半を経て復旧し、つい1カ月前に全線で運転を再開したばかりだ。何ごともなかったみたいに走る列車だが、じつはローカル線のこうした復活はなかなか難しい。 ▼自然災害によって寸断され、元に戻らなくなった路線が全国に散らばっている。東日本大震災で被災した三陸の線区の一部は鉄道の復旧を断念し、BRT(バス高速輸送システム)に切り替わった。秘境の鉄道として知られるJR只見線はじつに10年間も途切れたままだ。..